不動産を安く手に入れられる可能性のある「競売不動産」。前回の記事で、競売物件の特徴や物件選択、物件調査で注意すべきポイントなどお伝えしてきました。
ここでは、実際の入札手続きから開札、落札後の手続きかや明け渡しのポイントなど、私がこれまでに経験した実録もお伝えしながら確認していきたいと思います。
競売物件の入札手続きの流れ
いろいろ書いてあるサイトもありますが、BIT競売物件情報サイトの手続き案内を見ていただくのが正しくてわかりやすいと思います。さらに、各地方裁判所(民事執行センター)によって、若干取扱いが違ったり、書式が微妙に違いますので、必ず入札する物件の管轄の地方裁判所で書類を取り寄せたり、尋ねたりするようにしてください。

出典:http://bit.sikkou.jp/guidance/guidance02.html#anc02
大前提として、入札前には、「3点セット」の確認、現地での物件調査、相場価格の確認はぜひ自分の目で行ってくださいね。
いざ入札!期間入札の入札方法(物件情報の公告~約2週間後)
入札開始日は「BIT競売情報システム」で公告されますので確認しましょう。入札に必要な所定の書式(入札セット)は管轄の地方裁判所(民事執行センター)でもらえます。
入札セットとは、入札書・入札用封筒・裁判所保管金振込依頼書・保証金振込証明書のことです。

保管金振込依頼書(例)
遠方の場合、切手等を同封し返信封筒など付けて、郵送で書類をもらうこともできます。管轄の民事執行センターに電話で問い合わせのうえ、依頼してください。
入札に必要な書類と準備物は次の通りです。
- 入札書
入札書の記載にあたっては,単独入札の場合、共同入札の場合それぞれ注意点がありますので確認して記入します。

入札書(例)
- 入札保証金振込証明書
この証明書は折り曲げないでください。
この証明書の表面の下部に,金融機関で受け取った「保管金受入手続添付書」を貼付し,「入札保証金提出者」欄で使用した印鑑と同じ印鑑で割印をしてください。

入札保証金振込証明書(例)
- 入札保証金分の保証金額(公告書に記載の額)
- 印鑑(認印可)
- 添付書類
ア 法人が入札する場合→発行後3か月以内の代表者事項証明書又は登記事項証明書
イ 個人が入札する場合→発行後3か月以内の住民票(マイナンバーが記載されていないもの)
ウ 共同で入札する場合→発行後3か月以内の続柄の明記されている住民票(マイナンバーが記載されていないもの)等(詳しくは執行官室にお尋ねください。)
エ 代理人によって入札する場合→代理委任状
ただし,ア~ウいずれの場合も,第三者が単に書類の提出行為を代行するだけであれば,委任状は不要
入札後の手続き~開札から
開札
最高価買受申出人及び次順位買受申出資格者の決定は、開札期日に執行官が行い、その後、原則として3開庁日後の売却決定期日に、裁判所が売却の許否を決定します。
何事も経験と思い、一度だけ開札の場に出向いたことがありますが、「BIT競売情報システム」でも結果が確認できますので、必ずしも裁判所へ出向く必要はありません。
傾向をつかんだり、次順位以降の入札価格を知るためには開札期日に裁判所に出向くことも勉強になります。ただし、これも資料として業者が有料で販売もしているようです。
売却許可決定・確定
最高価格で買取申し受け人に対して裁判所より売却許可決定が下されます。 その後、異議申し立て等がなければ、売却許可決定から1週間後に確定されます。
明け渡し交渉
売却許可決定の確定後、裁判所から代金納付について明記された「代金納付期限通知書」が届きます。占有者または所有者がいる場合は、明渡しに関する交渉を行います。一応明け渡し交渉の開始はこの書類が手元に届いてからとするのがよいでしょう。
例えば、どこにも行く当てがなく、居座り続けている占有者に対して「引越し資金をもつので、いつまでに明渡ししてほしい」といった交渉を行うなど内容は様々です。
ただし、「引き渡し命令」は、代金納付するまでできません。あくまで明け渡す日時や条件などの交渉であり、毅然とした対応は必要ですが、威圧的な態度は、かえってマイナスです。
この段では、所有権は自分に移る予定となったけれどもまだ所有者ではありません。できるだけ買受人の少ない費用出費でスムーズに退去してもらえるような対応が大切です。
代金納付
買受人は、入札価額から保証金額を控除した売却代金を、裁判所の定める日(民事執行センターにおいては、通常、売却許可決定確定の日から1か月程度)までに、一括して払い込まなければなりません。裁判所の定めた日までに売却代金が納付されない場合、保証金は返還されませんので注意が必要です。
なお、売却代金の支払時期等については、通常、売却許可決定の約10日後に郵便で通知されます。
引き渡し命令・強制執行
代金納付後、落札物件の占有者または所有者にようやく「引き渡し命令」ができるようになります。明渡し交渉が難航している場合は、必要に応じて申し立てましょう。 引き渡し命令が確定すると強制執行の申し立てが可能になります。
最悪のケースですが、立ち退かない場合は強制執行がなされます。
競売手続きには、買受人が簡単に不動産の引渡しを受けられるように「引渡命令」という制度が用意されています。
通常は、強制退去を強いる権利(債務名義)を獲得するには裁判を起こす必要があり、裁判で勝って債務名義を獲得するまでに約3ヶ月~6ヶ月程度の時間を要します。
これでは時間と手間がかかり過ぎ、誰も競売物件をまともな金額で買わなくなってしまいます。
そこで、「引渡命令」という制度が設けられ、申立てから約2~3日程度で引渡命令が発令され、とても簡単・スピーディーに不動産の引渡しが受けられるようになったのです。買受人は、代金納付をしたその日の内に引渡命令を申立てることが可能です。
とはいえ、引渡命令から強制執行までは状況によっては時間も要しますし、費用も一旦立て替え払いとなり、しかも回収できるとは限りません。極力、交渉で退去しれもらえるよう尽力することをオススメします。
登記識別情報通知書の送付
代金納付手続後、裁判所から「登記識別情報通知書」が送達されます。権利証の役割をもちますので大切に保管してください。
所有権があなたに移っていることを確認し、占有者が無事退去、明け渡しが済んだらようやく競売手続きが完了といえますね。ここまできたらホッと一息です。
【実録】競売物件落札後はケースバイケース
実録1)家族からの買い戻し依頼(山口県)
債務者であるお父さんがそのまま住むために、息子さんが住宅ローンを組んで買い戻しされたケースがあります。ただし、この金融機関はおそらく特殊な対応をしてくれた例で、他に問合せをした金融機関では断られています。投資として取り組んでいるので、落札価格+諸経費+αでの売却です。数回の電話交渉(相手からの相談)と息子さんとの売買契約、決済時の同席をしました。
実録2)敷地内にお墓あり。築30年の築古戸建て物件(広島県)
敷地内に墓石が3基あることが、裁判所資料で確認できていましたが、裁判所資料の写真では家のすぐ脇にお墓があるように見えました。現地に出向いて確認したところ、墓石がある土地とは段差があり、家や庭の敷地からは見えない位置であること、近隣の聴取で、戦前からある無縁仏であることがわかりました。
さらに、現地にいくと、室内は全く荷物もない状態なうえ、カギはかかっておらず、見える範囲で確認したところ、近年にかなりの資金をかけたであろうリフォームを済ませており、設備のグレードもよく、手をかけないで良さそうと判断できました。かなり築古ではありましたが、入札者はいないと見込んで最低価格で入札。落札となりました。
お墓の対応も、近隣の墓石屋さんがお寺の手配までしてくれ、最低限の費用で供養と墓石の撤去をしてくれました。
最低価格での落札で、リフォーム代とお墓の対応にもそれほどの費用はかかりませんでしたので収益は多かった例です。
実録3)前面道路が私道で持ち分ナシだったケース(山口県)
家への現在の進入路が私道で、対象物件には私道持分がありませんでした。ただし、家の裏側にも道路があり現況では利用していないものの再建築は可と確認してありました。
ただし、金融機関は進入路である私道の持ち分がないと住宅ローンは無理との回答があり、すでに空き家となっていた隣家の所有者の連絡先を入手、相談依頼したところ、大変良心的に、判代程度でその方の持ち分の10分の1を別けていただくことができました。
無事住宅ローンも利用可能な物件となり、近隣でマイホームを探していた若夫婦が大変喜んで購入してくださいました。
実はこれが、私の初めての入札&落札物件で、前面道路の問題等の関係でやはり基準価格+1万円での落札でした。振り返ると、競売物件での投資が無事スタートできたのも、この方のおかげ。隣家の方に感謝です。
実録4)買い戻し相談→賃貸相談→4ヶ月後退去→売却までに1年8ヶ月(山口県)
正直、損失が出た物件です。敷地面積も広く、自然という意味では環境も抜群で建物はモダン。個人的に感性で気に入って落札。真っ先には買い戻しの相談がありましたが、価格が折り合わず、賃貸の希望もありましが、状況からみて資金回収に不安が残るため退去をお願いしました。
無償で4ヶ月居住したこととの兼ね合いで、こちらの費用負担はなく動産もすべて占有者さんの負担で退去。
そこからの、リフォーム→販売でただでさえ時間がかかった物件だったうえ、結論としては1年8ヶ月後に大幅値下げしての売却。計算上収支は250万円の損失。数回の面談の交通費、諸経費、ストレスを含めると数字以上のダメージ。
自分は感覚的に気に入った物件でしたが、いわゆる過疎地の物件を選択したのが最初のミス。買い戻し交渉が入ったときに価格を譲歩しておけば良かったと感じることが2つ目のミス。土地勘のない地域の物件はもっと情報収集して決断しなければならなかったと思います。
色々経験してみての気づき
競売物件を扱うようになって8年目。引渡命令・強制執行手続きは1件も経験していません。しかし、どの物件も何かしら問題や課題が出てくるものです。その問題はしっかり取り組めば多くは解決していける事であるか、もしくはお金で解決できることではあるのですが、やはり時間と労力もかかります。
サラリーマン大家さんが流行っていて、たしかに大家さんでいることはサラリーマンでもOLでも可能です。
競売不動産投資は他の不動産投資に比べると、転売でも賃収でも多くの利益が見込める可能性が高いことは事実ですが、初心者が片手間で参入するには時間と労力がかかるというリスクと心理的なストレスが存在することは知っておくべきことだと思います。
まとめ
不動産を安く手に入れられる可能性もある競売不動産。初心者は参入すべきでないともよくいわれませすが、マイホームや社屋を市価より安く競売で手に入れている一般の方もチラホラいらっしゃいます。さらに、不動産投資として考える場合、「安く買って高く売る」「安く買って賃収を得る」など「安く取得する」はセオリーです。
ここでは、それでも競売に参加したい!競売物件を取得したい!という初心者さんに向けて、入札から開札、所有権移転、明け渡しまで、書類と手続きの流れを確認しました。
実は、入札は手続き自体は難しいものではありませんし、裁判所のHPや管轄の地方裁判所の民事執行センターに出向けばかなり親切に教えてくれます。
なんといっても競売不動産は、「物件調査」と「落札してから」がミソです。しかも自己責任。所有権移転まではきっちり裁判所が対応しますが、それ以外は全て自分で解決していかなけらばなりません。とはいえ、私も今後も魅力的な物件を探しつつ競売不動産投資は継続したいと考えているので自分がやってて、あなたはムリとは言いません(笑)
一般流通物件の売買と違うということをしっかり認識して、慎重にかつ思い切って取り組めばまだまだ魅力的な市場だと感じます。
いっしょにがんばりましょう♪