住宅ローンの利息負担を軽減するには、繰り上げ返済をうまく活用するのがひとつの効果的な方法ですが、どんなときでも繰り上げ返済を行えば有利、というわけではなさそうです。
まずは、繰り上げ返済のメリット・デメリットについて理解し、「我が家ではどうか?」の判断材料にしてくださいね。
さらに、やるとなったらタイミングも大事。そのタイミングとコツについてもお伝えしていきます。
いま、「やるとなったら」とお伝えしましたが、ファイナンシャルプランナーの中にも、繰上げ返済推奨派と繰上げ返済しない派がいるように思います。ちなみに私は後者。その理由もお伝えしていきます。
Contents
繰上げ返済のメリット
繰り上げ返済とは、定期的な返済以外に、手元の資金で住宅ローンを返済することです。
返済資金はローン元金部分に充てられるので、それに対応する利息の負担がなくなり、結果、トータルの利息負担が軽減されるのです。
繰上げ返済には、
- 利息を効果的にカットする「期間短縮型」
- 将来のキャッシュフローを安定させる「返済額軽減型」
の二つのパターンがあり、期間短縮型の繰り上げ返済の場合には、さらにローンの完済年齢時期が早くなるため、「ローンにかかる利息軽減効果」と「退職後のローン返済負担を軽減すること」が繰り上げ返済の主なメリットといえるでしょう。
返済額軽減型の場合には、「家計のキャッシュフローを調節したい人」「毎回の返済額が多くて負担に思う人」には有効でライフスタイルの変化で収入減があったご家庭や、教育費増で返済額を減らしておきたい場合などにはメリットといえるでしょう。
繰上げ返済の6つのデメリット
手元の現金が減る
当たり前のことですが、手持ちの目先の現金が減ります。繰上げ返済のメリットを追求した結果、「子どもの学費負担が多くのしかかる時期」や「事故や病気で長期入院が必要になった緊急時」に教育費や緊急予備資金の不足で貯金がゼロもしくは、その時になって借り入れを考えなければならないとなっては本末転倒です。
団体信用生命保険のメリットが享受できない
住宅ローンには団体信用生命保険という生命保険が付いています。(一部フラット35の利用の場合団信に加入していないご家庭もちらっと聞きますので注意が必要です。)
ローン契約をしている契約者が死亡したときには、住宅ローンの残高が500万円であろうと、3000万円であろうと“ローン残高に関係なく”すべて保険で支払われます。つまり、住宅ローンの残高がゼロになるのです。
もし500万円の繰上げ返済をした場合と、しない場合で万が一があったときどうなるか?
- 住宅ローン残高2,500万円・預金ゼロ → 住宅ローン残高ゼロ・預金もゼロ
- 住宅ローン残高3,000万円・預金500万円 →住宅ローン残高ゼロ・預金500万円
万が一を考えると、繰り上げ返済は逆効果だったともえいます。さらには、最近では団体信用生命の種類も多様化しており、3大疾病でローン残高ゼロになるもの、7大疾病、8大疾病と亡くならなくてもローンがゼロになる団信も多くなっています。
もちろん、その分金利上乗せになっているケースが多いので、上乗せ金利との兼ね合いも検討材料です。ちなみに、私は3大疾病付き団体信用生命が上乗せ金利ゼロ(銀行負担)で加入できているので、その意味だけでも繰上げ返済しないメリットを感じます。
住宅ローン特別控除が受けられなくなる(メリットが減少する)
繰上げ返済の結果、借入れ期間が短くなり、完済するまでの返済回数が120回を下回る程短縮してしまったら、住宅ローン特別控除はその年から受けられなくなります。
住宅ローン控除は、大まかに言うと、年末時点の住宅ローンの残高を対象にその1%の額の所得税の還付を受けられる税額控除です。つまり、100万円の繰り上げ返済をすると控除額が1万円減ってしまうことになります。
平成19年、平成20年に住宅ローンを利用し始めた人は、住宅ローン控除が15年間使えるケースがあります。また、返済が始まってからの時期やタイミングによって、控除限度額が1%ではなく、0.4%や0.5%、あるいは0.6%などということがあります。
住宅ローン特別控除については、そもそもの借入金利や、借りた時期などにより、繰上げ返済とのメリット・デメリットの兼ね合いが変わりますので、「我が家の場合はどうか」をよく確認することが必要です。
低金利のメリットを放棄!?
現在の住宅ローン金利はとても低く、年利0.7%台で借りている人もいます。繰上げ返済することは、このとても低い金利で借りているローンのメリットを一部放棄していくことにもなります。
市場金利も高く住宅ローン金利が高かった頃には、繰上げ返済のメリットも非常に大きなものでしたが、現在の低金利時代で以前よりも繰り上げ効果が薄れている中では、必ずしも絶対的に効果的といえないケースも多くなっています。
税金の問題
マイホームを売却して「損失」が出たときに、『住宅ローンが残っている』&『そのローン額よりも売却した金額が低い』ときは、確定申告をすることで税金が戻ってくる場合があります。
しかも、その税金が戻ってくる期間は、売却したその年だけでなく最長で4年間使えます。
繰上げ返済をした結果、ローン残高がマイホームの売却額を1円でも下まわっていたら、この制度は使え無くなってしまいますので、これから家を売る予定があれば、繰上げ返済は良く考える必要があります。
期限の利益の喪失
例えば住宅ローンを期間35年で契約します。この契約した35年間が、自分が銀行と契約して獲得した「期間(時間)」です。言い換えると、毎月金利を支払う事で、35年分の「時間」を手にしたとも言えるのです。
つまり35年間という「期間(時間)」の権利を持っている訳です。繰上げ返済のうち、利息軽減効果の高い「期間短縮型」の繰上げ返済をすることで、この「期限の利益の喪失」を自ら選択してすることになるのです。
繰上げ返済する場合のタイミングとコツとは?
ここまで、繰上げ返済のデメリットをしっかりお伝えしてきたために、「繰上げ返済はやめておこうか・・」と思った方もいるかもしれませんね。
これはあくまで、1つ1つの項目を損得で考えた時の考え方の1つの視点です。中には、住宅ローンを組んでいるというだけで、過大なストレスという方もいらっしゃいますし、借金のイメージがどうしても嫌という方もいらっしゃいます。なので、「気持ちや家族の考えやライフスタイルも含めて、我が家ではどうがいいか?」という視点で考えてみてくださいね。
そして、いざ「繰上げ返済をする!」を選択するなら、住宅ローン控除を受けている間の繰り上げ返済は、一般的に年末より年初のほうがトクといえます。
さらに、しっかり貯めてから繰上げ返済というよりは、こまめに(早目に)繰上げ返済の方が利息軽減効果は高いです。ただし、金融機関によって繰上げ返済手数料の設定が変わりますので、確認してみて無駄な手数料は極力とられない方法をオススメします。
まとめ
住宅ローンの繰上げ返済のメリットとデメリットをお伝えしてきました。既に組んでいる住宅ローンの金利・期間・残高などによって、繰上げ返済のメリットも大きかったり、思ったほどでもなかったりケースバイケースです。
また、利用している住宅ローン特別控除によっても繰上げ返済がメリットとなる場合とデメリットとなる場合があり、「我が家ではどうか?」の視点で確認してみることが必要です。
数字だけの損得でない部分もありますので、「気持ちや家族の考えやライフスタイルも含めて、我が家ではどうがいいか?」という視点で考えてみてくださいね。
私は個人的には、住宅ローン繰り上げ返済はしない派です。元気で働けて、頭が使える間は、まとまった「お金」には「お金に働いてもらう」を実践したいと考えているからです。
ただ、FPとしてご相談やアドバイスをするときには、そのご家庭によりケースバイケースですね。「お金に働いてもらう」にはリスクもありますし、そもそも例えば「借金が嫌い」という感情の部分は人それぞれですからね。
1つの情報だけでなく多角的に、中長期的に判断する視点は大切にしていきたいです。
いっしょにがんばりましょう♪